深呼吸する言葉・ワナタベジンジンタロウ

おっさん中退・ジジイ見習い

2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

意地悪な/些事の日々・79

高齢の女性が座席を譲られる。 どうにか腰掛け、居眠りを。 隣の大また開きの男は舌打ちばかり。 ついに涎が垂らされ、ももへ落ちたと知らぬまま、下車していく男。 席を譲った女性と目が合えば、思わず笑顔に。

今日も雨か/この領土で・324

近所の中古本販売チェーン店が閉店。 すぐ後に、予想通りドラッグストアーが。 美と健康が売り? 早過ぎる開店スピード同様、空ろである。 チョビ髭野郎のいたドイツには、それでも7百年続く薬屋があるという。

逃げるんだ、ベイブ/ラブソング・63

お前が怒鳴られるのを視たくないよ。 殴られたり、倒れたりするのも。 ああ、いやだ、いやだよ。 可愛いわがままと、疎ましいそれとが耳元をかすめて行く。 知ったこっちゃあないが、居場所を確保していくんだ。

地上に、「ただいま」と今日も/唄・34

今日も空を眺めては、「ただいま」と――。 祝福するために生まれてきたのだ。 福を祝うなど、無理なこと? こうも言おうか、「歌うために生まれてきた」。 でたらめな唄でいいのだ、ただし、身心の声を込めた。

長い、長過ぎる階段を前に/歩く・20

「まだ踏み止まっているぜ」と思っていた。 暗澹たることが発生したわけではない。 すでに覆われている。 それ故、自覚ができない? 名乗り上げたいわけではないと確認、相変わらずビルの階段を歩き始めていた。

闘う人と和む人と/些事の日々・78

料理している姿はどこか勇ましい。 命と格闘しているからか。 一方、食べているときは愉しそうであっても横顔に寂しさが宿る場合も。 命をいただいているからか。 底なしのおぞましさから離れられるといいなあ。

涙のわけ/彼女と彼・3

彼は久しぶりに食卓につく。 目の前に座る彼女には白髪が。 彼は話しかけもせず、笑う。 その後、彼女から問わず語りで聴かされた故郷・東北の話に、「ばかだな」と。 「笑わせるよな」と窓の外、星空を見やる。

ラジオがブルーズを/些事の日々・77

リクエストしたわけではない。 にもかかわらず、今、とても聴きたかった唄が流れてきた。 「繰り返しては聴けないよな」 集中して、実際は溶けるように、全身を耳へ放る。 ラジオは、いや、ラジオが歌っている。

着地は成功したものの/この領土で・323

バスが止まる。 狭い歩道のため立ち止まったが、人は降りてこない。 すると、高齢の男性がゆっくりと。 地上に到着できた安堵感からか、ため息を。 そうして、右か左か、どちらへ向かうべきか、長く考えていた。

独りという浄土ですること/山へ・7

獣の出ない山へ入って行こう。 木々の下、1人プラス半人分のシートを広げようか。 手早く調理して、温かいものを、のほほんといただく。 その後は、午睡でとろける。 目覚めるときは、風が教えてくれるだろう。

呼吸が深くなっていった/歩く・19

わたしたちの先達、木々の傍らをゆっくりと歩く。 見上げる、見詰める、見惚れる。 深呼吸をしてから、再び歩き出す。 真っ直ぐ伸びているだけの木はない――。 だからどうしたというわけでもなく、歩き続ける。

笑い話のような/彼女と彼・2

彼女は去って行った。 彼は始終想い、考えていたが、理由は不明のまま。 何故か。 彼女にも実のところ、何も分かってはいなかったからだ。 ついに結論を出すため、2人は、苦笑の再会を果たしていくことに――。

あのラーメン屋へ行きたい/食卓慕情・10

今はない中華屋の前を通り過ぎたとき、思い出していた。 手際よく美味しいものを並べてくれたなと。 何より安いのが嬉しかった。 愛嬌はなかったが、陽気そのもの。 「そうか、人の命を肯定する仕事だものなあ」

今年もまた、新緑の候/些事の日々・76

桜が散っていく。 この世にはいない、しかも、あの世はないから、どこにもいない父母もまた、同じ桜の木を愛でていた。 生きている者たちと死んだ者たちを再会させる老木。 懐かしくて新鮮な青葉が視界に届いた。

精いっぱい/身体から・85

老いとは、自分の身体のことだけで、精一杯になること? 心もまた、引きずられ、暗澹と。 そこいらで、立小便ぐらいするさ。 桎梏か、はたまた解放か。 毎日まいにち、朝を迎え、夜が通り過ぎ、気づけば黄昏だ。

忘却するばかり/言葉・68

幾多の物語。 読んで観て感じてきた。 ただ、残念で救済でもあるのだが、ろくに覚えてはいない。 ついと思い出すだけだ。 今を生きていると言えば聞こえはいいが、物語に収まらぬ領域に侵食されているのだった。

来いっ!/還暦百番勝負・80

また、新しい週が始まった。 月を愛でては、火に遊ぼうか。 水にたゆたいつつも、木を浴びて、金の如く輝く? ついに、土へと還っていき、日にさらされる――。 いっそ、1日の中で循環させられるといいのだが。

ビルのカードを手にして/この領土で・323

病や犯罪の専門家たちがいる。 心や貧困を食いものにしたり、上昇に汲々としたり、黒板に向かうだけの人々も。 薄いカードで内と外が明確に分断されてきたのだ。 養生や親和、交感への淡さを求めて顔を洗い直す。

記していく/言葉・67

記すとは捧げる営為。 人や事物に対する、愛の、もしくは絶望の供物。 世界を存続させるために、告げていくのだ。 グルリが消失してしまえば、告白さえできない。 今日もまた、沈みながら黙るために記していく。

夜には、「さぶいなあ」と/この領土で・322

いつまでも寒さが消えない、どうしたわけだ。 単に、うすら寒いだけか。 夏の暑さでグッタリしても、続いているだろう寒さ。 よからぬことの兆候? 生自体の禍々しさに比べて、どうということはないのだろうが。

気ままだなんて/還暦百番勝負・79

つっかけで、近所の止まり木へ。 2、3杯ひっかけ、気持ちよくなっては駄法螺を吹く。 気ままという春の愉しみ。 自由ではないが、役立たずな閃きも訪れて。 死後の世界に関する激論の虚しさが遠いだけマシだ。

春、神の手だなんて/還暦百番勝負・78

海辺へ、ゆるりと出向く。 コップに海水を入れて愉しむのだった。 陽にかざしては、しばし眺める。 光線の具合、何かが浮遊する姿、何より海水の透明性。 コップの中のものを海へ戻しに行くのは、まだ先である。

わたしもまた、歩き始めている/喜怒哀楽・6

喜びや楽しみなのではない。 怒りや哀しみこそが、常態なのである。 長きに渡り、嘆きや否定の対象だった死こそが、生よりも本態なのと同様に。 だからこそ、衰弱していく両脚で、歩き始められるときがあるのだ。

民主主義という名の/この領土で・321

1人で舞台に立っている。 だからだ、緊張するのは。 みなが舞台に立っている最中、観客は自分と気づき、驚愕を。 全員が舞台に立ち、全員で視ている舞台は監視社会。 1つの舞台に幾億もの舞台を盗み見ていく。

だから、どうした/合掌・43

祈る、「今、祈っている」と、ふいに感じながら。 実は、祈ることができる幸。 踏みにじっている場所での僥倖であるが故に、再び三度と祈り続ける? 青空、花々、そよ風――。 だから、どうした、暮らしてゆく。

求める/還暦百番勝負・77

望むことは多くない、今も。 例えば誠実と贈与、貢献。 そうしたことにまつわる文脈だ。 嘘をつくこともなくて、必要なものは提供、喜び合える関係――。 物語が桎梏となることを熟知した物語の声を求めている。

雨雨雨/この領土で・320

横殴りの雨が降り出していた。 足下には早くも水たまりが。 傘はさしていたが、靴どころか、靴下まで濡れ、疎ましい。 が、当然のことながら知っていた。 雨が、雨以外の音を消し、静寂をもたらす場所もあると。

意志・意思こそ投げる/些事の日々・75

物を投げてはいけない。 家族がぞんざいに扱われて平気ならいざ知らず。 丁寧に、静かに置くことだ。 新聞・雑誌はもとより、カップを投げるなんて…。 それでもというのなら、自分自身をまず投げ捨てたらいい。

線上の1本/還暦百番勝負・76

1本の線を引く、心を込めて。 地平線にもなれば、山の稜線にもなる線。 巧拙は関係がない。 ほどなくすれば、1本の線は1本の線に戻っている。 かくして、また何かに変化していくだろう1本の線の、実は愉快。

富士山2014/この領土で・319

富士山らしい姿がどの方角から視たものなのか、気にはしない。 どの場所から接しても即、分かるからだ。 日本一と冠するのも当然か。 山々を歩き、ついと出逢ったときの驚き。 富士山に登ろうとしない由縁――。