2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧
水中歩行をしていた際、前を歩く中年夫婦が奇妙な動きを。 「抜くかな」と思った途端、気づいた。 妻のリハビリに夫が付き添っていたのだ。 「ゆっくりでいいよ、歩けるじゃないか」 柔らかい声が水面で跳ねた。
見えぬ鉄条網に唄の花をと思う朝だった。 深いから遠くへ、冷静だから恍惚へ、そうして静かだから豊かさへとも。 花の美もいいが、種子の明日も感じていた。 そうした中、種子のお前が、花も咲かしていたんだね。
花が咲いたと喜ぶたび、お前もまた咲くんだね。 たとえ一片の花びらしか視界に入ってこなかったのだとしても。 そも、お前の目は、広く、深く、遠くまでは届かない。 花の全体を、ただただ感じ取っているんだね。
冒頭に、「わたしもまた、被災者」と記された手紙をいただく。 お住まいは南国、ご高齢の方だった。 お金もなく、不幸は続き、介護の日々という。 脳裏には自殺者増加の記事、シゴトが返信となりますように――。
前方を凝視しつつ、かけている老眼鏡に映った背後も眺めていた。 気分は逃亡者。 燃え盛りつつ炭と化す木々や、目を閉じて見失うものと見えるものも、同時に感じていた。 後頭部、いや、全身眼球化事態の妙──。
身体は張らず、手さえも動かさず、単に喋り続けるだけなのか。 わたしたちの日々は、そうはいかぬ。 すっかり視えていたことなのだが。 手仕事の結果だけが提出できる贈り物、そう言い切っていく心積もりでいる。
信じているものは何か。 強いて言えば、長くながく大切に感じてきたことだ。 例えば娘の小心、連れ合いの臆病、友の屈託。 神的なるもの、ついには愛への思いよりも遥かに深く拡がり、かけがえのないときがある。
「考えを述べただけ」と体感したとき、自らを疑う。 そうして、誰にも滅多にはない、賛美されたことの体験を、何とか思い出すのだ。 結果、少しは、そう少しは、しのいでゆけるさ。 それでいいんじゃあないのか。
数値が高ければ不安・恐怖は増し、低ければ低いで疑心暗鬼に陥る日々。 視ることが出来ぬ時間の背骨も数えよう。 爪は立てないように。 行くあてはとうに失っていたが、目の前の多くの人々もまた同じだとは――。
昼間から泥酔できる嬉しい事態の中、脳髄が囁く。 「情報に押し流されて、周囲の些事を見失うことなかれ」 帰路、電車に座れば、眼前には痩身の生体実験中のモデルたち。 風景に美醜はもう関係ないはずと、ふと。
美しい花々。 ただ、花の形の手、花柄の指紋、あるいは花模様の耳はなくていい。 当たり前の様子だが、見つめれば実に独創的なものに惹きつけられる。 多様性を訴える語り口の単一性に、水の音がしたかのような。
今宵、とろける時間の始まりを味わい続けたい? それとも、甘美な流れを存分に体験し続けたい? あるいは、絶頂の瞬間を長く持続させ続けたい? わたしは、酔い覚ましの月光を浴びようと、扉を開けたところ──。
無意識が向かわせた大音量のロック。 「やられるなら、方法としての自爆さ」 が、流れてきたのはラブソング。 身体の揺れは停止、顔を上げた。 「昼寝中でも呼吸している事実は忘れず、倒れるものか」と念ずる。
シゴト仲間に言った、「暴れたかったら、おれの机の上でどうぞ」。 実際にされたら困るし、誰もしないのだが。 心の脈拍について、しばし考えていた。 「パピプペぽっぽっぽ〜っ」なんぞ口ずさみつつ。 ピース!
今日へ言葉を贈る試み。 できないのは、何故? 緩みきれていない余裕の証左か。 疲労を実感できぬほど疲れてはいけない。 わずかな歩幅でも踏みしめるように歩を進めるしかないのだ、足場が悪くなればなるほど。
あなたは事実・真実、そうして歴史・広場。 引きずり下ろしたり、持ち上げたりしたいわけではない。 教訓に導かれようとする空虚さは知っているもの。 生きているから味わう喜び、生という法悦の手のひらの上で。
もよおしたとき、あれこれ気にはしていられぬ。 ただ、駆け込めるトイレがあればいいだけ。 「死ぬときも同じだといいな」とふいに。 「墓は必要ないが、我ながら、ひどいなあ」と自省する、ただならぬ空気の中。
耐えられることしか抱えられないと、分かっているさ。 ただ、自分の身体ともなっている大切な人が去ったとき、励まされてもな、励ましてもなあ。 そうそう、特に笑っていなくたって、微笑んでいることもあるんだ。
ライターの火を点ける。 風が吹いてきて、ゆれては消えかかる小さな炎。 火はロウソクに移っていかない。 手のひらで柔らかく、素早く包む。 集まってきた連中の視線が、束となって熱く届いてくる、祈っている。
お前は脚を少し高く上げ、組み替える。 詩を装う意味のない改行のように。 それからさ、よく分からないものの、想いが伝わり合う会話で綻んだのは。 互いに、「見つめ合うことを見つめているね」とも感じながら。
事態を受け止めるたび許容量が拡がったり、崩れていったり。 呑気に強気、弱気に勝気。 そうした折、お前からの直球の想いが柔らかいよ。 打ち返しはしない、できない。 受け止め、生への想いが芽生えるばかり。
夏とはついに、わたしの、おれの季節がやって来たと、明確に思い定める状態のこと。 生命が内臓の内側から輝き出すかのようさ。 ただ、現実の今夏は初っ端から疎ましい。 海に出向く気も失せ、今日も耐えている。
男は女に向かい、「人生、返せよ」とは発しなかった。 一方、女は男に向かって、「足跡も残さないで」と背中に放つ。 明確な決裂。 互いの悪戯心で気づけば別れていた関係より、救いを秘め、明るさも漂っていた。
不確かな現在、決して安全ではないという確かさ。 そうして、確かなのは、謝罪やヴィジョンの不確かさ。 無神論者でさえたまげた神への冒とく。 同じ人間である領域にどのように決着・始末をつけてゆくのか──。
豊かに越したことはない。 ただ、つましくとも、団らんを囲んで、しのいできた。 人を押しのけない、自由で公平な感覚をよみがえらせようとしながら。 豊かになっただけでは解放されないと、もう知っているのだ。
テーブルの上にカップを置く。 何故か、「言葉は愛、愛は言葉。言葉が言葉を愛してゆき、愛が愛を言葉にしてゆく」と言葉が走る。 「細い雨を眺めて暮らすのも、悪くないな」 冷める前の紅茶に、手を緩くのばす。
何のために、何故、生きてゆくかだって? そう問う必要がない場所で、問わなくてもいいように暮らそうとも努めてきたんだ。 ただ、今、断言するよ。 問うお前を祝福するために生きて、祝福が生きる意味なのだと。
平日の公園で、独り、太極拳を舞い始めた。 すこぶる気持ちがよい。 ほどなく、「どうして視えないのか」と不吉な思いを抱く。 「地にも潜る物質が漂っているというのに」 空は阿呆の如く、青くて広いまま――。
わが家へ、気軽に帰ることができないだなんて…。 大切な思いが微塵もないからできたこと? 高貴な方が引っ越してきたとでも? 子どもの子どもの子どもたちに、この国の初体験をどう侘び、何を伝えよう。
今や権力・悪の在り方も変化した。 上滑りなものの緻密、何より貨幣の如く流通するものとなったのだ。 そも、マスコミ人を始め、権力者にその実感は薄く、悪もまたお手軽である。 1つの国の存在が危ういときに。