深呼吸する言葉・ワナタベジンジンタロウ

おっさん中退・ジジイ見習い

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

昔むかし、あるところに…/彼女・1

月が出たとき、地上の果てへ向かった女性を思い出す。 屈託を見せまいとした笑み。 ただ、彼女だけが今も変わらず若いのだった。 自分たちが老いて、見捨てられたかのよう。 永遠に終わらぬ物語が息づいている。

雨が空から降れば2012/この領土で・19

ひと雨ごとに寒くなってゆく。 休日だというのに、雨宿りする場所もないまま。 ずぶ濡れで眺めていた銭湯の煙突。 気分で死ぬときもあるし、理性で獣になるときもあるだろう。 ひと雨ごとに寒くなってゆくんだ。

こじれないために/当世労働者覚書・9

威圧感を感じる敵がいたとする。 相手がどれほど強くとも、ヤクザや銃を使わないのなら、武器となるものは分かっている。 まず、身振り。 そうして、言葉・ことば・コトバだ。 胸は反らさず、開いていくに限る。

敗戦後にも敗戦/この領土で・18

分かっていないし、理解できていない。 例えば3億円事件の犯人。 先ほど使った鋏が出来るまで。 そのくせ、画面に向かう人ばかりの電車内を見渡して、呟く。 未体験なのに、「敗戦後の焼け野原みたいだな」と。

伝えたいこと/娘と・81

首をすくめる、お前の臆病振りが好きだよ。 周囲に知られまいと、おどけることはないさ。 はにかみながら人の中へと入ってゆく姿は、わたしの希望。 開かれた拙い素振りが、上下・左右を無化してゆくことを祈る。

相変わらずだな/この領土で・17

料理や俳優、血液型や出身地。 そうした話題で華やかなテーブルから逃れてきた。 今も差別・区別が存在する中で、月光を浴びていたほうがマシだったから。 何とではなく、どうつき合っているのかを聴きたいのだ。

絶望を見届ける/この領土で・16

ぐるりが暗く絶望に浸っても、嘆くなかれ。 そも、絶望の中では嘆くことさえできないものだ。 むしろ、光に注意しようか。 目が潰され、何も観えなくなるのだから。 負けたほうがいい闘いを知り、見届けるのだ。

分けられ、裂けている/この領土で・15

笑っているのに腹には哀しみが、怒っているのに胸には喜びが――。 文句を言い続けて長命、笑顔のまま夭折というときさえ。 問題は屈託にではなく、屈託の抑圧にこそある。 そう気づく朝に、熱いコーヒーを一口。

やけくそ/地声で・26

元気な高齢者ともなれば自慢が相場? 胸の内から消されたときが死と知っているのだ。 孫自慢に病気自慢、貧乏自慢? 愚痴と表裏一体故に厄介だ。 わたしは、そうだな、孤立自慢に臨死体験自慢、飢餓自慢なのか。

絶叫/この領土で・14

子どもの泣き叫ぶ声が聴こえてきていた。 「もう、ぶたないでっ」 連れ合いも確かに耳にしたという。 ただ、絶叫の居場所は、分からぬまま――。 うちのめされつつ、屋外のいくつもの暗闇を見つめていたのだが。

責任という妄想/当世労働者覚書・8

関わっている相手が亡くなったとしたら? 責任はとりようがない。 謝罪しても、しきれるものでもないだろう。 だからだ、労働現場の基盤に、責任が求められているのは。 食卓はいつも、わだかまりなく囲みたい。

クロージングタイム2012/この領土で・13

もう店仕舞い? あと1杯くれないか、1杯でいいんだ。 仕方ないな、貢献や支援もしないんだな。 いいじゃあないか、1口でいい、だめなのか? なだめたいだけさ、水同様、身心が相変わらず売買されていく今を。

大きさの見えない秋/唄・14

夕陽が差し込む部屋、畳はくすぐられっぱなしだった。 スピーカーからは、「戻ってきなよ」の歌声――。 見送っても、永久の唄はつかめないものだ。 さて、この世から、あの世へ帰るとき、唄は渦巻くのだろうか。

臆病は病ではない/当世労働者覚書・7

蹴散らすように進み出て、眼前をわが物顔で歩く人々。 道を封じられ、陰に身を置いたとしても構うことはない。 代わりに流れ弾に当たってくれるかもしれぬ。 その後の様子伺いは1歩ではなく、半歩だけ前に出て。

どうもスミマセン/この領土で・12

記憶を失っていることに気づく。 輪郭に触れただけでも、アルコールの臭いが立ち込めてくる。 鼓膜を破壊したくなる衝動のようなもの。 耳を閉じて、腰を上げる朝。 悪霊の誠実が、月さえ奪うことも眺めている。

解体新書2012/この領土で・11

命に責任を持とうとしているのか。 要は人生に。 絶え間なくスッキリとせず、息せき切って寛ぐ日々? 足りないのか、対応が拙いのか、無駄ばかりしているのか。 解体するまでもなく、壊れた場所からの出立――。

実が現で現実なのか、実現なのか/この領土で・10

通過してきた道程の微光。 思いの痕跡は消えない、消えやしない。 同行していた子犬はかつて、「今日は走り足りなかったね」と見上げてきた。 多忙が仕事の輩は気付かない。 切実な狼煙がすでに上がっていることを。

今日も老いる/野の花チャイルド・15

美男美女が老いた姿。 鬼気迫るものがあった。 いや、なに、それがどうしたというわけでもないのだが。 ただ、人は生きてきたように老いるのだなと。 美は守るものに非ず、更新し続けるものと、野の花が呟いた?

立ち止まれば雲/野の花チャイルド・14

とにかく、急いでいた。 通りかかった公園では雲をうっとりと眺める男の子。 急いでいた、とにかく。 男の子の傍らでは爺さんがうつらうつらと。 急いでいたが、野の花の如く咲く2人に見惚れていた、とにかく。

昼月と/この領土で・9

街へ。 セクシーという勘違い、ダンディーという冗談、キュートという眩暈、そのフェスティバルのよう。 わたしはといえば、歩くことさえ覚束ない間抜けぶり。 肩と肩とがぶつかり、見上げた空には由緒正しき月。

罪と罰2012/この領土で・8

「罪を密かに背負っていこう」と思っているのか。 それとも、「罰は当たらぬ」との信仰? 「非を認めないのは情けないこと」と母は伝えたはずだ。 朝日をさわやかと、まだ感じられるのなら、すべてを公然とせよ。

オートバイ2012・1/この領土で・7

前を行くオートバイの2人乗りが、危ない。 追い抜くかどうか逡巡、すると後部座席の女性が降りる仕儀に。 ヘルメットを脱ぎ、ライダーに言った。 「母さんはここでいいから。後は気をつけてね」 手が振られた。

スパイ小作戦/この領土で・6

このままでいいわけがない、このままで。 ただ、気をつけている、正面のみならず、脇にも。 おまけに、強風が背骨を叩いてもくる。 予防が肝心だが、死自体は予防できない。 隙だらけの自分を尾行し続けている。

遠くの情景/ラブソング・50

おまえが胸ボタンを1つ外す。 傍らの花瓶が微かに揺れた。 ボタンは1つずつしか外せないとぼんやり思う。 遠くにいるから感じ取れることも。 今夜は散歩をしよう、受話器に向かい、「おやすみ」と告げた後に。

何処にもいない者たちと/合掌・37

死者は何処にいる? 天国なんぞにいるものか。 何処にもいないのだ、何処にも。 この、ふやけた脳の中にしかいない。 当然のことだが、それでも会話を続ける、「何とかやっているよ」と脳が心に語りかけていく。

海も孤独/合掌・36

森を失って得た物は? 線路に靴、チケットに自動車、旅行鞄に通信機器…。 多くの恩恵に浴してきたが、失ったものは何処にも行かない木々。 移動せず、遠く離れた海とつながっている森の、静かで深い物語。 合掌

背骨の記憶・3/この領土で・5

「突然、娘にさ」 昔の上司と一献のときだ。 「何故バリケードを作ったのか、聴かれてさ」 その後は朧だが、次の言葉は覚えている。 「娘専用の部屋が持てたときは、お互い大喜びさ。あいつが学生のときかなあ」

笑みの発生/この領土で・4

父と娘とが居酒屋にやって来た。 沈黙を破ったのは娘のほうだったか。 高齢者であるが故の不始末を大きな声でなじった。 杯を呑み干す父。 沈黙後、娘は耳元へ話し掛けた、「今日はありがとうね、楽しかったな」

走って向かった/背骨の記憶・2

恐くて、そのくせ懐かしく、丸くなれる場所があった。 原っぱに行けば、出逢えたはずだ。 土埃さえ気にならなかった。 友だちとは走って向かうべき場所。 土管の中、さらに親しくなり、わたしたちは○を知った。

大病息災/この領土で・3

1日では、そう遠くへ行けない。 気づけば、老いていた。 先に殺される側になったが、肯定への衝動を確認できて、悪くない。 「この病を抱えていくしかないな」 望遠鏡を逆に覗けば、涼風がふわりと舞っている。