深呼吸する言葉・ワナタベジンジンタロウ

おっさん中退・ジジイ見習い

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

健康法という恥/還暦百番勝負・41

痛い風が一瞬休んだとき。 「自分の健康に照れなくていいが、たまには恥じていいんじゃないか」と。 言い訳だってしていい。 再び立ち向かう場所が観えたのなら。 生意気だが、自分の元気が疎ましいときもある。

巡礼/彼・9

戦場体験を語る元兵士。 陰惨な光景は届きにくい。 壊れかけた肺が、伝えようと必死だ。 言葉がついに人々の胸に落ちたのは、亡くなっていく戦友の姿が語られたときである。 死者の沈黙が眼前に見えたのだった。

反オリンピック者/還暦百番勝負・40

強く、速く、高く、しかも粘って――。 ただ、スポーツ選手は激しい運動故、免疫力を落としやすい。 結果、風邪引きも多いという。 とどのつまりはサドとマゾの混合体と言えば怒られるだろうか? 歩いていくさ。

嬉しいなリンゴ/還暦百番勝負・39

赤い。 腕を伸ばして、手に取る。 少し上に放り、丸い手応えを受け止めると、適度な硬さが伝わってきた。 皮をゆっくりと剥き始めていく。 そのときだ、「リンゴの皮のように薄い大気」との話を思い出したのは。

夏の身体/平成問わず語り・5

若いとき、はみ出されて薄暗く、間抜け故、潔癖だった。 孤独・孤立ではなく、つまりは爪弾きの自覚なき単なる呑気か。 地べたに平気で寝っ転がり、天を睨んでは高いびき。 今や何だかご免だが、今も同じ場所だ。

ほらほら、咲いたよ/野の花チャイルド・22

花が咲いたよ、花が。 いいなあ、あの挨拶の仕方。 つい先日まで、姿形も観えなかったのに。 まるで突然、現れたかのように、お辞儀しているんだよ。 おしゃべりはできないけれど、対話はできるよ、きっと、花。

ロックと神/唄・27

「ロックは死んだ」との物言い。 ただ、神同様、今も人々の中で生きている? あるいは、神同様、生まれていない? 実は、生まれずに生きており、死んでもいる三位一体状況? 大音響の中、静かな声を聴いている。

音を楽しむ、もしくは楽しむ音/この領土で・267

音楽は運動、運動は音楽。 音楽のため、運動を開始しても楽しくはない。 運動のため、音楽を利用しても愉快ではないだろう。 音楽の運動性、運動の音楽性を同時に浴びていく。 少なくとも、深くなってゆくのだ。

問題解決もまた問題を生む/還暦百番勝負・38

歩いているとき、ふいに屈託が芽生えた。 「生きることによって生じた問題は、より生きることによってしか解決しない」という言葉を思い出す。 結果、さらに問題が発生するのだが。 歩いていく。 空はまだある。

あの日から時間だけは経ち/この領土で・266

素晴らしい絵画と出逢った。 が、「陳腐なイメージだな」と感得を。 いや、言い換えよう、すでにイメージ自体が陳腐だと。 長くボールを蹴っていないと気づく。 「そうだ、キャッチボールもしていないよな」と。

逃げ足/還暦百番勝負・37

腰を低くして周囲をうかがう。 隙が見えたら一気に反撃だ。 罠だとしたら? そのために逃げ足を鍛えておくのだが、肝心なのは逃げ場所はないとの心得。 脚が自分を運んでくれなければ、「はい、それまでよ」さ。

名を呼ぶ/ラブソング・60

お前の名を呼ぶ。 変哲もない呼び名だが、無意識では想いがこもっている。 願いはたったの2つ。 まずは病があっても健やかなこと、そうして愛することができる心のたえずの発生。 無理難題とは分かっているが。

吐き続ける/呼吸・45

被害を蒙って、一段と弱き者へ。 立ち向かっていくべき? それができればいいのだが。 立ち上がれぬことさえ往々にしてあるのは、痛みの大きさ故。 傷は癒えないが、呼吸で吐き続ければ、ふと端緒につくときも。

立ち上がるために/この領土で・265

「貧乏なことを気にするな」なんてバカな言い草だ。 ただ、たまには豪華にいこう。 思い切ってラーメン屋で餃子を足せばいいさ。 銭湯の溢れる湯を眺めるのも悪くない。 身心のバネに油をさすのだ。

ばったもん/還暦百番勝負・36

ばったもん? わたしを呼んだのかと思ったよ。 ここはひとつ、社会の善意化ではなく、善意の社会化を。 状況と対峙することなき安楽に興味はない。 いいだろうなあ、流通の必要もなく、暮らしに息づく善き想い。

どん底で/彼・8

プライドを捨てた働く彼の、実は強さ。 後は労働そのものへと向かうだけだ。 勝つためでなく、ただ生きていくためにと意識も変容。 成功はしないかも知れない。 が、生きていく手がかりはつかんでいるのだった。

遊泳禁止/この領土で・264

2人暮らしの夫婦が、旅支度を整え終える。 若者たちが広場で肉を焼き始め、車椅子の高齢者たちは花を愛でていた。 蒼天の下、子どもらの歓声も。 その後のことだが、夫婦は今もなお家に帰ることができずにいる。

難病治療の対応を思い出していた/還暦百番勝負・35

めざしていても、たどり着けないとしたら? 目的地の変更を。 めざすこと自体もいっそ放棄する。 その結果、立ち上がってくることに賭けてゆくのだ。 闘うことをやめる効用にすがるしかないときもあるのだった。

走るときもあるさ/還暦百番勝負・34

どうしても見ておきたかった、いや、体感しておきたかった。 が、電車は逃げ、信号は決まって赤。 足はもつれ一段と焦るばかり。 空をやはり見上げるしかない一瞬。 時間は過ぎていたが、諦めるわけもなく――。

怒りの拳/世界昔話・1

譜面を読めない美空ひばりは一発で決めた。 一方、江利チエミは何度も録り直したそうだ。 何故か。 納得いかなかったからだという。 脈略なく、表彰台の上、黒い革手袋の拳が天に突き上げられた瞬間を思い出す。

吠える2013/還暦百番勝負・33

世代論に回収して、呑気にはしゃぐ輩へ向かって吠えたい。 「30歳以上を信じるな」 昔の文脈とは、逆転させた感覚で。 大切なのは同時代人。 ヴィジョンを開示した死者たちと出会い直し、語り合っていくのだ。

夕陽赤く2013/還暦百番勝負・32

お先真っ暗クラのクラの介。 どなたもこなたもオロオロウロウロ、あらまのどんなもんだい。 夕陽が泣けばメソメソと? つまらなくたって大丈夫、面白くたって厭きは来る。 おててつなぎ、真っ逆さまはご免だよ。

友へ・3/還暦百番勝負・31

初めて出逢った際、「嫌な奴だ」と思い、そのくせ、「懐かしいな」と体感。 爾来、どれほど時が流れたか。 今、再会すれば、「いい奴だな」と、しみじみ実感。 「いやあ、新しいなあ」とも。 別々に生きていく。

徒競走/身体から・78

つないだ手を離し、スタートラインまで、小走りに。 合図までの時間は短く、永遠のよう。 青空を一瞬、眺める。 ゴールまで、たった1人で走り抜けなければならない。 その後だ、離した手を再び求めていくのは。

存在で問う存在/彼女・7

障がいのある女性が、聴衆を前に語り始めた。 静かに、熱く、ついに諦めることなく。 身体を壊された怒りもあったのだろう。 が、問うていたのだ、「このままでいいの?」と。 心までは決して壊されることなく。

まず隣へ/言葉・59

読む際の心がけは、言葉誕生の背景、送り手の意図の読解。 記すときは、できれば懐に森と風、川と海を入れておきたい。 語り合う場所には内容よりも大切な意味が渦巻く。 共振は遠い? かすり合うだけでもいい。

おいおいな老い/還暦百番勝負・30

今後よくなることはない。 身体の融通はきかなくなるはずだ。 将来がないのだ、心は晴れないだろう。 が、そこで生きていく、生きていかざるを得ない。 「仕方ないな」と呟きつつ、されど「天はいらぬ」と強く。

今日という3月11日/この領土で・263

1通のはがきが届く。 「息子を亡くしましたが、この悲しみは誰にも分からない」 身心からため息。 分からないことは分かっている。 そうして、便りを記し届けようとするまでに至ったとは、感じているのだった。

談じながらの笑/彼・7

お金には恵まれて来なかった。 いわゆる知識もないに等しい。 しかも、病を得た独り暮らし。 不幸と言えば不幸の極みの如き日々。 「ただ」と彼は笑う、「ただ、家族という桎梏は消えたのでマシだよ」と真顔で。

山彦/彼女・6

遠くから、祝福の唄が流れて来た。 ためらいがちの、か細くて小さな声。 聴こえていたものの、多くは聴いてはいなかった。 彼女は、ふと我に返るかのように耳を預ける。 そうして、木霊のように口ずさみ始めた。