2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧
差し障りなく接する、実は冷酷。 いい気分を欲して他者を必要とする、残酷。 何のことはない無視と無視とが凌ぎ合う、過酷。 地上でも溺れるばかり。 人が海から出たとき明るい夜だったか、暗い朝だったか――。
「賭け事好きの父が、ジャンケンしたがってね」 啜り出したので、「何?」と聴き掛け、呑み込む。 「結局、負けて笑顔で逝ったわ」 ほどなく、「チンケよね」。 泣き笑いの中、写真の高齢者はやはり笑っている。
遠くへ、オートバイで夜通し走った。 たえず身近に己を携え。 いずれ死ぬから救いはない? いいや、固有の救いのなさはまだ気楽、共有できない寂しさは私有地なのだ。 解放が確かに漂ってくるときさえある――。
逃げるのではない、脱出してゆくのだ。 人の命が土や光、水や木より尊いと、いつから信じ込んでしまったのか。 愛は事件ではない、ましてや事故にしてはいけない。 小石を宝石に変える魔術より、土壌作りからだ。
うんざりした顔つきでは、うんざりしている内実が伝わらない。 関係を断っていると思われてしまうもの。 憂うつな素振りが偉そうだと嫌味になってしまうのに似て。 困惑していること自体に困惑しないことだなと。
この世に、まして、あの世にも天国はない。 地獄はある、この世に、虹の彼方にも。 長く続く怒りや哀しみ、そのくせ短い喜びや楽しさ。 憂さを晴らそうと溜息を吐けば、鼻唄の1つ、誕生させられるかもしれない。
露天風呂に、震えて向かう。 冷気に包まれるものの、湯は熱く、一気には浸かれない。 身をどうにか沈め、息を大きく吐く。 そこかしこからも唸り声。 呆けた爺さんが、大きな手のひらで湯面を打ち、笑っている。
ふと、「いつ死ぬのか」と体感を。 歩いてきた太いロープは細くなったが、経験から落ちそうで落ちない? ふと思い出す、「頭だけ使う、阿呆」という言葉。 そうだ、たった今、考えないほうがいいことがあるのだ。
枯れ葉が舞っている。 別離を決意した人が示す親切に接したときのよう。 寂しいような、惜しいような、それでいて得心したような。 ねえ、ほら、ゆっくりと落ちていくよ。 もう何もかも、止まってしまえばいい。
大根を煮込む、じわり、じっくりと。 鍋から取り出して、小鉢に置けば、湯気も招く。 箸で割り、フーフーと頬張る。 地味な美味を玩味すれば、口から全身へ行き渡る滋味。 一本調子ではない千両役者に舌を巻く。
例えば腕白と粗雑は違うと指摘して、何になろう。 腕白だから事件に巻き込まれるときもあるし、粗雑故、生き延びられるときも。 固有の事態と事態を結ぶ通路を詳らかにしたい。 そうして、広場を誕生させるのだ。
夜が深くなり広がってゆく。 ぼちぼち帰る時間だ。 若い友に礼を言えば、子どもたちが手を振ってきた。 一段と別れ難い気持ちに包まれる。 夜の別嬪な雲を眺め、しっかり別れの挨拶をしなくてはと、手を握った。
雨雨雨雨雨、そうして雨。 霧雨に地雨、私雨に煙雨、慈雨に暗雨。 あの雨、この雨、その雨、凍てつく雨、突く雨、離れぬ雨。 情緒は雲散霧消、汚れた雨一色なのだ。 上がっていく雨を、もう長く待っている――。
もう泣くなよ。 おれが言えることは少ないが、泣くなよと伝えたい。 怒るほうがマシ? いや、一緒に呼吸を重ねられたらいい。 冷たい雨が降る中、逃げ場所はどこにもないけれど、互いの温もりはまだあるはずだ。
古より長寿の秘訣は、あれこれ言われてきた。 満腹は避け、よく歩き、ゆっくり休むことが結論か。 ただ、病弱の健康体、健康体の病気も。 万人に適した方程式はないのだ。 つまり、出たとこ勝負の、望むところ?
考えたことがあるだろうか。 子どもたちの、子どもたちの、子どもたちが日本人を名乗るとは限らないと。 うんざりしてしまった挙げ句の果てだとしたら――。 世界中から国境線が消えた結果だとしたら嬉しいのに。
暮らしは見世物ではない。 展示・陳列できるわけもなく、解説したからといって、こぼれ落ちるものが多過ぎる。 何故か? 生きているからだ、あれも、これも、それも、みな。 薄暗い朝、湯の沸く音がしている。
部屋に入り、荷物を広げる。 強風の夜だが、炎は静かに揺れるだろう。 そうして、仲たがいか、たった1つのことで。 手ぶらで出て行くしかない。 が、結局は相性のよさがまた、凪のときの発熱をもたらすはずだ。
冬も早朝から、外へ飛び出していった。 陽射しが嬉しかっただけで。 ボール1つあれば十二分だった。 齢を重ね、今、体感している。 子どものころの、1人で、わけもなく張り切っていた身心が理想だったのかと。
生き延びるのは辛いものだな。 嵐の夜に窓を少し開け、風向きを知ろうとする。 生き延びるのは寂しく、悲しいものだよ。 1度に多くの流星を追いかけることはできない。 生き延びていこうとするしかない日々に。
病で鳥の羽1枚が重いとき。 横になって立っている。 頭ではなく腹が天へ向かい、足裏ではなく背中が地に着いているのだ。 体内の嵐が通り過ぎますように――。 止まっている時計が動き出す音を遠くに聴きつつ。
どっしりと大地に立つことはない。 突かれただけで、バランスを崩すものだ。 仮に何もしていないつもりでいて、身体のどこかは必ず反応をしている。 つまり、動いているのだ。 移動しながら、重心を得るに限る。
今を基点に、過去と未来へ矢を放つ。 両極の始点は、無限の、霧の彼方だから、届かない? いや、一瞬のうちに鉢合わせするだろう。 わたしが今いる、ここで。 すでにたどり着いているのだ、想いとしての矢――。
覚悟には力がないだろう。 木っ端微塵だ、周到な準備に、湧き上がる勇気も。 すべて気休めだ。 ただ、あったほうがいい、手中には。 見つめ続けていたいものがある幸と苦の間で揺れ続けていくのだ、またしても。
責任逃れの言い訳をして当然? 上層の人々が、そうなのだから。 敗北を認めて、始め直そうとしてきた。 足を運び出さなければ、息ができないもの。 知っている、地の果てはここだと、思いは何処へでも行けると。
「何故、何のために生きるのか?」という問い。 すでに生きていること自体が眩しいのだが。 それでもなお言葉にするとしたら、死者も含め、祝福し合うため、束の間ここにいるのだと。 それさえ巧く運ばない折に。
「走っちゃっダメでしょ」 駅構内、母が娘をたしなめる。 ていねいに、「手をつないでいないと危ないからね」。 「分かった」 そうして、盲導犬と一緒の母は、娘の手を強く握り、階段をゆっくり下り始めていく。
家族連れが多い街中を避けて、彼女は歩いていく。 人々は必ずしも幸せではないと知ってか知らずか。 小さな仕事を糧に、1人で暮らしている。 どこかで悪いことをしたわけではない、いや、むしろ善行の人だった。
老いて美から見放され、醜へと。 強さから弱さへも向かうだろう。 高潔さもいささか面倒となり、野卑はご免だが、いっそ野蛮? 実は人と人との間で人間に生まれ直す老人。 若くなくたっていいんじゃあないのか。
電車が、トンネルを潜り抜けてゆく。 不幸もパーフェクトなら、受容できるとでも? 風景を後ろへうしろへと追いやるが如く。 親子でも契約書を交わす奇妙な時代だ。 到着した場所が大雨でも、空は見つめていく。