深呼吸する言葉・ワナタベジンジンタロウ

おっさん中退・ジジイ見習い

今も連帯/言葉・237

戦前・戦中・戦後のことだ。
唯物論が夢だった時代があったのである。
要は、考え方の駆け込み寺だったのではないのかと。
世間知が人の命を奪う事態のとき、翻訳本へと向かうしかなかった人々。
連帯していく。

唯物論の事態・内実などはともあれ、置いておき。

▲『無料本』(写真)
「あ、あったあった」
無料の本である。
公園のベンチにだ。

www.youtube.com【一体誰なのだろう?/今日も少しだけ】
 公園のベンチ。
 過日の無料本、「およみ下さい」は強烈だった。
 まず目に飛び込んで来たのが、『愛する大地』ル・クレジオ著(新潮社)だ。
 ジャン=ルック・ゴダールの『映画史Ⅱ』(筑摩書房)にも、「きゃっ」と^^。
 帯には、こうあった。

 映画のシステムのただなかにいるこの「よそ者」は、このシステムを構成するさまざまな要素を次々に疑問に付し、それによって、しばしば権力に奉仕するものとなるこのシステムをどどどどどどもらせようとしているのである。

 どどどどどどの、写植の詰め打ちを含め、あはは、座布団か。
 ちなみに、書籍が置かれてあったベンチには、男がすでに座っていた。
 長髪で、髪の毛を後ろで結わえ、ウオーキングウエアで身を包んでいる。

「凄いですね、今日の本は」と話しかけた。
 すると、「なあんだ、本の提供者かと思ったよ」と。
 彼も、無料本の提供者に関心があるようだった。

 しばし歓談、私たちの見解は一致したものだ。
「およみ下さい」の筆跡の弱さから高齢者であること、また今までの書籍の傾向から男であること。
 以上2点である。

 長髪の男は現在73歳、朝早くに家を出て、夕刻6時まで歩いているという。
 ときに自転車で、東京の西方・小金井から都心・新宿あたりまで出向くそうだ。
 年金をもらいつつも、月に10日ほど、働いているともいう。
「まあ、社会との接点がないとさ」

「お金がないと、みな言うけれどさ、どこまでないと死んでしまうのか、実験するぐらいの気持ちが大切だよ」
 そう聴いたときには、思わず、「たいしたものですね」と笑ってしまった。

 そうして、「80になったらさ」と言い出したのである。
「ヨーガの教室でも開こうかなと。
 おれ、からだ、柔らかいんだよね」
「どなたかに習っているのですか?」
「そんなことしないよ」

 何でも、1日1mmずつ前屈ができるようになる計画はダメだという。
「10日で1mmがいいところだね」
 そう言い、脚の前後開脚をしてみせたのだ。
「ゲッ、すげえですね」
「あはは、毎日鍛錬よ」

 そう言いつつ立ち上がり、「あ、本の無料提供者のことが分かったらさ、教えるよ」と。
「お願いします」

 が、わたしたちは、電話番号の交換さえしていなかったのだったが。
 もちろん、彼の名前さえ知らない。

 どうか、今日も、ご無事で。


【追記/「ううむ」】
 合掌の日である。
 手を合わせた。
 佳き今日を。